水面のダツの巡回
海草の草原

水面のダツの巡回

地中海の浅瀬、水深わずか数メートルの海底に、*Posidonia oceanica*の草原が広大なリボン状の葉を潮流に揺らしながら広がっている。水面から差し込む陽光はコースティクスの網目を砂地に描き、各葉脈の細部を鮮明に照らし出す——光合成の副産物である酸素の微小な気泡が、一部の葉身にダイヤモンドのように貼りついている。このポシドニア草原は単なる植物群落ではなく、地中海沿岸生態系の礎石であり、数百種の無脊椎動物・魚類・頭足類に産卵場と幼生育成地を提供する青い揺り籠である。水面直下では、細長いダツ(*Belone belone*)の群れが銀の糸を引くように泳ぎ、その下の草冠には半透明の稚魚たちが群れ、捕食者から身を隠しながら生命のサイクルを繰り返している。人間が存在しないこの浅海に、1気圧から2気圧の穏やかな水圧と、塩分36〜39 PSTの安定した海水が満ち、花被植物が海中で根を張り光合成を行うという地球上でも稀有な生態系が、誰に見られることもなく今日も静かに機能し続けている。

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